ーーなぜ警察官面前調書を作った後で、さらに検察官面前調書を作るのか?【刑事実務基礎科目の学習方法】〈司法試験・予備試験タクティクス〉

刑事実務基礎

問題文から得られるヒントの数を増やすには?

刑事実務基礎に関しては、当該科目特有の学習よりも、まずは、訴訟手続について丁寧に学習するのが得策です。

身体拘束の手続、公判前整理手続、証拠調べ手続など、さまざまな手続がありますが、この記事では、伝聞法則対策について紹介していきます。

今回は、「平成29年予備試験刑事実務基礎」の問題を見ていきましょう(太字下線は筆者追記)。

⑶ B子の警察官面前の供述録取書(証拠③)
「私は,1年半前からAと交際し,半年前からLマンション202号室でAと二人で生活している。私とAは,4月1日夜から同月2日明け方までカラオケをし,Lマンションに帰るため,甲通りの歩道を並んで歩いていた。すると,前方からジョギング中の男(V)が走ってきて,擦れ違いざまに私にぶつかった。私は,立ち止まり,Vに『すみません。』と謝ったが,Vは,立ち止まり,『横に広がらずに歩けよ。』と怒ってきた。Aも立ち止まり,興奮した様子でVに言い返し,AとVが向かい合って口論となった。Aは,Vの面前に詰め寄り,両手でVの胸を1回突き飛ばすように押した。Vが少し後ずさりしたが,『何するんだ。』と言ってAに向き合うと,Aは両手でVの胸をもう1回突き飛ばすように押した。すると,……

⑺ 甲7号証 B子の検察官面前の供述録取書
B子の警察官面前の供述録取書(証拠③)と同旨の供述。

被疑者の交際相手B子が、被疑者に不利な内容の供述をおこなっています(警察官面前調書、検察官面前調書)。

この段階で、「もしB子が別のことを言い出したら?」という想定ができるかがキーポイントとなります(実際、設問(下記引用部分)を見ると、そのようなことを窺わせる問題設定になっています)。答案を書く際は、設問から読む人が多いと思いますが、設問だけ見てもなかなかイメージしづらいポイントだったかもしれません。ざっと確認して趣旨が分からない場合は、すぐに本文を読むようにしましょう。

〔設問6〕
下線部ⓕに関し,B子の証言の要旨は次のとおりであったとして,以下の各問いに答えなさい。
[証言の要旨]
・ AのVに対する暴行状況について,「AとVがもめている様子をそばでずっと見ていた。AがVの胸を押した事実はない。Vがふらついて転倒したので,AがVを介抱しようとした。AがVに馬乗りになって,『この野郎。』と言って殴り掛かろうとした事実はない。Vと関わりたくなかったので,Aの腕をつかんで,『こんな人は放っておこうよ。』と言った。すると,AはVを介抱するのを止めて,私と一緒にその場を立ち去った。」
・ 捜査段階での検察官に対する供述状況について,「何を話したのか覚えていないが,嘘を話した覚えはない。録取された内容を確認した上,署名・押印したものが,甲7号証の供述録取書である。」
・ 本件事件後のAとの関係について,「5月に入ってからAの子を妊娠していることが分かった。」

この設問では、以下で引用するとおり、321条1項2号に基づいて証拠請求できるか、というように、設問で誘導が用意されていますが、このような誘導がなかったとしても、相反供述を始めた段階で2号書面により請求することに気づくことができる状態を目指しましょう

⑴ 検察官として,刑事訴訟法第321条第1項第2号後段の要件を踏まえて主張すべき事項を具体的に答えなさい。

伝聞証拠を理解できているかを確認

なぜ警察官面前調書を作った後で、さらに検察官面前調書を作るのか?」という質問に答えられるのかをチェックしてください。

もし、「複数回確認することにより信用性を確認するため……」というように考えているのであれば、検察官面前調書をわざわざ作成する目的を理解できていない可能性があります。答えは、上記の誘導から明らかです。すなわち、検察官面前書面は、相反供述があった場合において、相対的特信情況が認められたときは、当該調書に証拠能力が認められます

一方、警察官面前調書だと、3号書面に該当するため、証拠能力が認められるための要件が厳しくなります(供述不能、不可欠性、絶対的特信情況が必要となります。)。

そのため、警察官面前調書を作成した上で、さらに、検察官面前調書も作成しておくことになります。このようにしておけば、今回の事例のように、捜査時とは異なる証言が行われた場合に、検察官面前調書を321条1項2号に基づいて請求することができます。

上記のとおり、2号書面は、法廷で証人が供述した場合において、その結果に基づいて証拠請求されることになります。いきなり証人尋問を経ていない段階で、相反供述・特信情況のあてはめが出てくるはずがありませんので注意しておいてください。

なお、いずれの調書も同意(326条1項)がなされれば、証拠能力が付与されることは言うまでもありません。上記は、調書の証拠調べ請求に対して「不同意」との意見が述べられた場合において、証人尋問が行われたときの対応となります。

どのタイミングでその証拠を用いることになるのか、ということを意識しながら整理することで立体的な理解が可能となります。この理解ができていれば、刑事実務基礎の問題を読むときに、「時間がかかりすぎる」ということも防ぐことができるようになります。

伝聞証拠は、「伝聞か非伝聞か」の区別で力尽きてしまう方が多い印象です。伝聞例外の規定も含めて、丁寧に整理するようにしてください。

この辺りは、『プロシーディングス刑事裁判』58頁以下が参考になりますので、一度、確認してみましょう。

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