分割債務・連帯債務と不可分債務をどのように区別するのか? 債権の目的が性質上可分かどうかにより区別することになる。まず、給付の内容が物理的に不可分である場合には、「性質上不可分」であるといえる。一方、金銭債務のように本来は可分な給付であるが、その対価となる給付が不可分な利益である場合にも、「性質上不可分」であるとして不可分債務となる場合があるとされている。
共同賃借人の賃料債務は不可分債務? まずは、判例の考え方を確認する。共同賃借人の負う賃料債務について、判例は、不可分債務であるとする(大判大正 11・ 11・ 24)。その理由について説明する前に、A及びBがCに肖像画を書いてもらうという契約を締結した場合について考えてみる。この場合、A及びBは、肖像画を書いてもらうという行為から不可分に利益を受けているのであるから、その対価である代金債務は不可分債務となる。
この理屈は、A及びBが、共同でCから建物を賃借する場合における共同賃借人であるA及びBが負う賃料債務について妥当する。というのも、各賃借人は賃借物の全体を使用している以上、賃貸借契約から不可分に利益を受けているといえる。そのため、その対価である賃料債務を不可分のものとして負担すべきだからである。
この考え方に対して、「性質上不可分」は債務の目的が物理的に不可分な場合に限定されるという考えを貫くのであれば、不可分の利益の対価として可分給付を目的とする債務は、原則的に可分債務となるという考え方もあり得る。
債権法改正後は連帯債務と考えるのが素直か しかしながら、債権法改正後は、共同賃借人の賃料債務に関しては、以下のように「連帯債務」であるとする見解が多い。すなわち、性質上給付が可分であるものの、各債務者が共同・不可分に利益を受ける利益の対価としての性質を有する債務については、現民法のもとでは連帯債務として性質決定をするのが適切である、とされている。
なお、複数の者が一個の建物を共同で賃借する契約を締結した事例であれば連帯債務として扱うこともできようが、相続によって共同賃借人となった事例では連帯債務の可能性を追求できないことから、改正前民法下の解釈(不可分債務となるという解釈)を維持する方向で検討するべきであろうという指摘もある。
上記のとおり、解釈が分かれている部分であり、改正法は不可分債務となるとした解釈を直ちに否定するものではなく、この問題はなお解釈に委ねられている。そのため、試験対策としては、従前どおり「不可分債務」となるとするか、契約の場合には連帯債務・相続の場合には不可分債務、とする立場のいずれかでまとめることになるであろう。
売買代金債務は可分債務 では、Aと Bが Cから共同で自動車を購入した場合の代金債務も同様に考えられるか。共同購入による自動車の引渡債権は不可分債権であることからすれば、その対価である代金債務も不可分債務となると解することもできそうである。しかし、判例は、複数の者が負担する売買代金債務は分割債務になるとする(大判大正 4・ 9・ 21)。
賃料債務と売買代金債務の違いは? 賃貸借と売買との違いをどのように説明すればよいのかが問題となるが、売買契約の場合、売買によって売主が処分し買主が取得するのは目的物(:不可分物)の持分権であるため、不可分物の共同売主・共同買主は、持分の割合で分割された代金債権を取得し、代金債務を負うと考えることになる。
共同賃貸人の賃料債権は可分債権 ここでもう一つ整理しておく必要があるのが、共同賃貸人の賃料債権は分割債権になるという点である。(最判平成17・9・8)。
賃料債務と賃料債権の違いの理由は? 判例が共同賃借人の賃料債務が不可分債務としているのに対して、共同賃貸人の賃料債権が分割債権となることをどのように説明すればいいのかを検討する必要がある。共同賃貸人の賃料債権は、上記の売買代金債権・代金債務と同様に考えるとよいとされている。共同賃貸物に関しては、持分権の法定果実であるから、分割債権となると理解できる。
【判例の結論まとめ】
- 共同賃借人の賃料債務 不可分債務(改正後は連帯債務と考える見解が多い)
- 共同買主の代金債務 可分債務
- 共同賃貸人の賃料債権 分割債権
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