【論述例令和3年司法試験環境法第2問

設問1

1 ⑴①の場合

⑴ 本件コンクリート破片(以下「本件破片」という。)は、産業廃棄物である(法2条4項1号、法施行令2条9号)。野積みを行っているのがC社であるから、C社に対して講じるべき措置から検討する。

⑵  第1に、P県知事は、C社に対し、事業の全部または一部の停止命令を行うことができる(14条の3)。

 C社は、廃棄物処理基準に適合しない処分をしている。また、みだりに廃棄物を「捨てた」といえる。したがって、P県知事は、C社が14条の3第1号で定める「違反行為をした」として、事業の停止命令を行うことができる。

 第2に、P県知事は、C社に対し、措置命令を行うことができる(19条の5第1項)。本件破片が乙地区住宅地へ崩れる危険が発生しているため、「生活環境の保全上支障が生じ、または生ずるおそれ」が認められる。したがって、P県知事は、その支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる。

⑶ 次に、B社に対する措置について検討する。B社は、21条の3第1項の事業者とされているため、本件破片を生じた事業者である。したがって、19条の6第1項柱書の「排出事業者等」に該当する。そのため、柱書の要件および同条各号の要件に該当すれば、措置命令を行うことができる。

 本件では、⑵で指摘したとおり、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあるといえる(同条1項柱書)。また、処分者であるC社の経営状況が悪化しているから、「処分者等の資力」からすると、「処分者等のみによっては、支障の除去等の措置を講ずることが困難であり、または十分ではない」といえる。さらに、B社は、委託契約において標準的な処理費用の3分の1のみを負担しているにすぎないため、「当該参照廃棄物の処理に関して適正な対価を負担していない」(同項2号)といえる。

 したがって、P県知事は、B社に対し、措置命令を行うことができる。

2 ⑴②の場合

⑴  P県知事は、19条の8第1項に基づき代執行を行うべきである。

本件では、すでに、産業廃棄物処理基準に違反した状態で保管されている本件破片の小規模な崩落が生じ始め、その拡大の兆候が現れている。したがって、19条の5第1項に規定する産業廃棄物処理基準に違反する産業廃棄物の保管がされている場合において、生活環境の保全上支障が生じ、または生ずるおそれがあるといえる。

 また、19条の8第1項4号にも該当する。すなわち、崩落の拡大の兆候が現れているため、「緊急に支障の除去等の措置を講ずる必要がある場合」であり、19条の5第1項に基づきC社に対する措置命令や、19条の6第1項に基づくB社に対する措置命令を行う「いとまがないとき」に該当する。

 したがって、P県知事は、19条の8第1項に基づき、代執行により支障の除去を行うことができる。

⑵  上記の代執行に要した費用は、処分者であるC社に対して負担させることができる(19条の8第2項)。また、19条の6第1項各号のいずれにも該当する場合には、排出事業者等にも負担させることができる。したがって、排出事業者等であるB社に対しても負担させることができる(19条の8第4項)。

3 ⑵の場合

 本件では、処理業の許可取消しがなされている。そこで、P県知事は、C社が19条の10第2項3号の「許可を取り消された者」に該当するとして、措置命令を行うことができる。

具体的には、C社所有の山林において産業廃棄物処理基準に適合しない産業廃棄物を保管しているとして、「産業廃棄物処理基準に従って当該産業廃棄物を保管することその他の必要な措置」を講ずるように命じることができる。

設問2

1 民事訴訟

Dは、本件破片の崩落を防止するため、C社に対し、差止請求を行うことが考えられる。

まず、土地および建物の所有権に対する侵害を予防するため、物権的妨害予防請求権として、差し止め請求をすることになる。

また、生命や身体に対する危害を防止するため、人格権に基づく差し止め請求をすることも考えられる。

さらに、すでに乙地区住宅地へ崩れる危険が発生していること上記の請求と合わせて、仮処分の申し立ても行うべきである(民事保全法23条)。

2 行政訴訟

 P県を被告として、A社、B社及びC社に対する措置命令の義務付け訴訟を行うことが考えられる(3条第6項)。さらに、仮の義務付けを併せて申し立てるべきである。

義務付け訴訟の訴訟要件について、まず、生命や身体への損害が予想されることから、「重大な損害が生ずるおそれ」が認められる。また、廃棄物処理法等に特別の救済手段が規定されているわけではないことから、「他の適当な方法がない」といえる(行訴法37条の2第1項)。

 さらに、Dは乙地区に居住しており、生命身体への損害が予想されることからすると、「法律上の利益」も認められる(行訴法37条の2第3項)。

 次に、仮の義務付けについて、「償うことができない損害を避けるため緊急の必要」が認められる必要があるが、本件破片が崩れる危険が生じているので、この要件も満たす。

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