【論述例】令和3年司法試験第1問環境法

設問1⑴

1 本件国道の新設事業は、「第一種事業に該当するものであった」ため、環境影響評価を行う必要がある。

 環境影響評価が行われた認可に関して、道路法74条は、国道の新設に関して、「免許等を行い又は行わない基準を法律の規定で定めていない」ため、免許等を行う者は、対象事業の実施による利益に関する審査と、環境の保全に関する審査の結果を合わせて判断する」とされている(環境影響評価法(以下「法」という。)33条2項3号)。このように環境に対する影響を考慮に入れて審査するものとされているので、環境影響評価手続に瑕疵があった場合に認可が違法となることを論拠にして、国土交通大臣が本件認可をすることは違法であると主張する。以下では、本件における環境影響評価手続の瑕疵について検討する。

2(1)まず、A県は、免許等に係る環境の保全の配慮についての審査第一種事業を実施しようとしているため、法3条の2第1項に基づき、計画段階環境配慮事項についての検討を行わなければならない。この検討に際しては、ルートに関する複数案を適切に設定する必要がある。また、設定しない場合は、その理由を明らかにするものとされている(【資料】平成10年建設省令第10号3条1項)。第一種事業を実施しようとしているA県は、この検討を行った結果について、計画段階環境配慮書を作成しなければならない。

 ところが、計画段階配慮書において、道路の位置についてPルートのみを設定し、道路の新設中止や別ルート設定の検討は行われていなかった。そのため、計画段階配慮書作成手続に瑕疵がある。

(2)次に、Qの保全に関して、CおよびDは、「少なくとも別ルートを検討すべきである」という意見書をA県に提出している。これは、法3条の7に基づくものである。ところが、準備書において「移植」のみを記載するにとどまった。

 また、この準備書に対してCおよび Dは、移植が成功した例がない、との意見書を提出した。これは、法18条1項に基づくものである。

 このような意見書が提出された場合、事業者は、評価書に意見の概要と事業者の見解を記載しなければならない(法21条2項2号、4号)。しかしながら、環境影響評価書には、この点に関するA県の見解は記載されなかった。そのため、法で定める記載がなされていないという点で瑕疵がある。

(3)次に、密集市街地E地区に対する影響について、周辺住民Fらは、G社の石炭発電所による環境負荷との複合影響を検討すべきである」、「SPMおよび騒音による健康被害や生活環境被害」に対応すべく、「少なくともE地区についてはトンネル化」および「SPM除去装置を設置すべき」との意見を提出した(3条の7、8条、18条)。環境影響評価準備書および評価書には、「環境基準を超えるSPMや騒音が発生する恐れはない」とされていたにもかかわらず、その前提となるデータの一部が改ざんされていた。環境影響評価を適切に行うには、その前提となる予測データが正確であることが必要である。ところが、本件では、「予測データの一部が改ざんされていた」のであるから、適切に環境影響評価が行われたとはいえない。

(4)よって、本件国道新設に際して行われた環境評価手続には瑕疵があり、国土交通大臣が本件認可をすることは違法である。

設問1⑵

 本件国道の新設を阻止するために、まずは、抗告訴訟としての差止訴訟を提起することが考えられる。この訴訟が認められるためには、「法律上の利益」が必要である。

 CはQの研究の利益、Dの自然保護活動を行うという利益を主張して、「法律上の利益」があると主張することになる。

 道路法は、道路法74条に基づく道路の新設の申請に際して、「工事計画書」、「工事費および財源調書」、「平面図、縦断図、横断定規図その他必要な図面」の添付を求めている。この中には、研究者の利益や、自然保護活動家の活動を保護する規定は設けられていないし、これをうかがわせるような個別の規定は見当たらない。そうすると、道路法は、研究者の研究の利益や、自然保護団体Dの活動を保護するものとはいえない。よって、原告適格は認められない。

 そこで、住民訴訟を提起し、公金支出の差し止めを求めるべきである。

設問2

 2011年改正により計画段階配慮書手続が導入されている。このような制度が設けられた趣旨は、可能な限り早い段階でのアセスメントを行うことで、アセスメントの結果を事業に反映させる点にある。

 また、計画段階配慮書については、環境大臣が計画立案の段階で意見を述べることができるようになった。主務大臣は、意見を述べる際に、環境大臣の意見を勘案しなければならない(3条の6)。そのため、事業者は、計画段階配慮書の段階において環境大臣が石炭火力発電所の設置について否定的な意見を述べた場合、計画段階においてこのような意見に対応する必要が出てくる。その結果、事業変更の可能性が高くなるという効果がある。

設問3

 法による環境アセスメントは、あくまでも個別の事業実施が決まった後の段階で行うものである。そのため、事業そのものの中止に繋がりにくい。

 そこで、環境基本法19条の具体化として、事業立案段階でのアセスメントを行う戦略的環境アセスメントを導入することが考えられる。このようなアセスメントにより、事業を行うかどうかを検討する段階から、生物多様性への影響など、環境への配慮を検討することが可能となる。

設問4

 Fらは、本件国道を発生源とするSPMおよびG社からの石炭火力発電所からのSPM等により生じた呼吸器系疾患を患ったとして、損害賠償請求を行うことになる。まず、国道を発生源とするSPMについて、国賠法2条1項に基づく損害賠償請求を行うことが考えられる。

 国賠法2条1項における「営造物の管理に瑕疵がある」とは、その営造物自体に瑕疵があることだけではなく、供用することにより生じた瑕疵についても対象となる。

 また、発電所からの大気汚染について、Fらは、発電所からの排煙の排出が709条の「過失」に該当すると主張する。

 以上を踏まえて、Fらは、国道の設置管理の瑕疵と本件発電所の不法行為とが共同不法行為に該当する(719条)と主張することが考えられる。

 共同不法行為が成立するためには、個々の行為者の行為に関して、709条の要件を全て満たす必要はない。なぜなら、個々の行為が709条の要件を満たしているのであれば、それぞれについて不法行為責任を認めればよいため、719条の存在意義がなくなるからである。そこで、719条は、主観的に関連共同性が認められる場合だけでなく、個々の行為者の行為に客観的関連共同が認められる場合には、当該共同行為と損害との因果関係が立証できれば、各行為者が連帯して責任を負うとした点にその意義があると考えるべきである。 

 よって、Fらは、A県の道路の供用とG社の発電所からの発煙という共同行為により受忍限度を超えるSPM等が排出されていること、これにより呼吸器系疾患を患ったため身体という利益が侵害されたこと及び治療費等の損害が生じていることを主張立証することになる。

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